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日本新聞協会は新聞週間に合わせ、2026年度の新聞協会賞受賞作品について各界の有識者にコメントを寄せてもらった。受賞作品全体は文芸評論家の三宅香帆さん、ニュース作品はスマートニュースメディア研究所の山脇岳志所長、企画作品は東大の林香里教授、写真・映像作品はメディアアーティストの落合陽一さんがコメントした。それぞれの視点から、作品を通して見えてくるジャーナリズムや報道の意義を語った。
2026度の受賞作は?
ニュース作品として選ばれた西日本新聞社の「歪(ゆが)んだ関係―福岡県政を追う」は、福岡県議会の高額な海外視察や、正副議長ポストをめぐる現金授受疑惑など、常態化していた不適切な慣行を暴き、地方政治を監視した。
企画作品は、社会に潜む課題を粘り強い取材で掘り下げた2件が選ばれた。神戸新聞社の「あの熱狂の中で」は、2024年の兵庫県知事選をめぐる熱狂や分断、メディア不信を丹念に追い、SNS時代における民主主義や報道の在り方を問いかけた。
京都新聞社の「隠れた刃」は、7年3カ月に及ぶ情報公開請求と訴訟により開示させた資料から強制不妊政策の実相を明らかにし、国家政策によって奪われた一人ひとりの人生と尊厳を掘り起こすとともに、障害者を取り巻く現代の課題も問い直した。
写真・映像作品は、多様なテーマと手法で社会や自然の実相に迫った3件が選ばれた。共同通信社の「終わらぬ悲しみの連鎖」は、イスラエル、パレスチナ双方の市民の表情を写真と映像で捉え、ガザ戦闘の現実を伝えた。
山陽新聞社の「島を渡る」は、約2年かけてシーカヤックで瀬戸内海の121島を巡り、島の歴史や風景、社会問題を描いた。
NHKの「ヒグマ 異変の海に生きる」は、高精細カメラやドローン、水中撮影などを駆使して知床のヒグマを長期間追い、気候変動による生態系の変化を映し出した。
【全体】文芸評論家・三宅香帆さん
受賞作品は、いずれも「当事者」の切実な声を丹念に拾い上げていた。地方政治、国際紛争、環境……。作品のテーマは違えど、時間をかけて問題を掘り下げ、読者や視聴者にリアルを伝えたという点で優れていたと思う。
SNSが普及した現代社会では、情報発信が得意な人の存在が目立つように感じる。だが発信できない人たちの声を集め、正面から伝えるのが報道の力であり、ジャーナリズムの役目だ。また、誰もが発信できる時代になったとはいえ、発信には技術が必要だ。この点、情報の「重み付け」、つまり価値判断ができるのも報道の特長と考える。
AI(人工知能)を活用すれば手軽に情報が得られるかもしれないが、集まるのはそのユーザーが関心のある事柄ばかりだ。一方で、たとえば新聞は見出しの大小でニュースの価値を示し、社会全体で考えるべき話題をバランス良く理解できる構成になっている。
SNSやAIの時代では、世間の関心が一つのことに集中しやすく、世論も一定の方向に過熱しがちだ。また、AIで偽の画像や動画を作り、拡散される恐れも高まっている。そんな中で、「これは事実だ」「これは事実ではない」と冷静に示すことができるのは、長い時間をかけて社会の信頼を積み上げてきた報道機関しかない。私は報道機関に、現代社会を生きる一人ひとりを〝冷やす〟役割も期待している。
その日のニュースを全て読むことができる新聞は、「お得」だと思う。まず新聞を手に取り、見出しを眺めることから始めよう。それが習慣になったら記事を読むことを勧める。読んだ後には「このニュースには驚いた」「この論評は共感できる」などと感想を書いてほしい。書くことで考えが整理されて見識も深まり、人生がもっと楽しく、豊かになるはずだ。
新聞には、その時々の出来事を後世に伝える「アーカイブ(記録保存)」の機能もある。果たすべき役割は時代を超え、ますます重要になっている。
みやけ・かほ 1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。リクルート社を経て独立。著書「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」「『好き』を言語化する技術」「考察する若者たち」「『夫婦』不在社会」等多数。2025年、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」にて史上最年少で新書大賞を受賞。
【ニュース作品】スマートニュースメディア研究所・山脇岳志所長
西日本新聞社の「歪(ゆが)んだ関係―福岡県政を追う」は、権力監視というジャーナリズムの役割を端的に示した報道である。
福岡県議会の高額な海外視察費、県職員による議員のパーティー券購入、正副議長ポストをめぐる現金授受疑惑など、報道が明らかにした一つ一つの波――。波は重なって、うねりとなった。福岡から全国に広がり、改革の動きを促している。
私が注目したのは、記者が感情に任せて記事を書き、県議会幹部を「悪者」にしたわけではないことだ。調査し、事実を積み上げ、冷静に報じて読者に判断を委ねる。地道な作業が共感を呼んだのではないか。
民主主義は、独裁・権威主義よりもはるかに優れたシステムである。しかし、選挙で票を獲得するためのプロセスや、議会と行政のもたれあいの中で腐敗が生じがちなのは、福岡、また、日本に限ったことではない。
記者は、選挙で選ばれる存在ではない。だからこそ、誰にも貸し借りのない「一市民」として行動し、報道を通じて民主主義の腐敗を防ぐことができる。
米国では、新聞がなくなった「ニュース砂漠」地域で、贈収賄などの汚職が増加したという調査研究もある。健全なジャーナリズムは、民主主義を支える力となる。
やまわき・たけし 1964年生まれ。兵庫県出身。京都大学法学部卒。朝日新聞社に入社。事件、行政、経済、国際、調査報道などに携わる。オックスフォード大学客員研究員、ワシントン特派員、論説委員、GLOBE編集長、アメリカ総局長、編集委員などを経て退職。2022年より現職。
【企画作品】東大・林香里教授
企画作品の受賞作はともに画期的かつ規模の大きな取材で組織ジャーナリズムのあるべき姿を体現し、示唆に富んだ。
神戸新聞社の「あの熱狂の中で」は、何が正解か分からない状況で記者が現場に飛び込み、社会の一員として市民の姿を伝えたことが良い。メディア不信は簡単に消えないだろうが、謙虚に、粘り強く解決策を探る重要性を示した。
京都新聞社の「隠れた刃」は7年をかけて勝ち得た一次資料を基に取材し、権力の不条理を暴いた。生殖や障害を巡る問題は今につながるが、従来は断種実行側の情報が欠けていた。訴訟で解明の道が開き、研究者にもありがたい。
情報を社会で共有し知識を培っていくのは民主主義の根幹であり、ジャーナリズムの存在意義だが、どんな素晴らしい記事も読まれなければ意味がない。ネット社会において、良質な情報をどう市民に届けるか。新聞社だけでなく、情報産業に携わる人々や研究者も一緒になり、社会的な論点として考えていかなければならない。
はやし・かおり 1963年生まれ。愛知県出身。2009年より現職。21年から東京大学理事・副学長も務める。博士(社会情報学)。専門はジャーナリズム/マスメディア研究。第40期日本メディア学会会長。日本学術会議連携会員。放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権委員会委員などを歴任。
【写真・映像作品】メディアアーティスト・落合陽一さん
3作品にはじっくりと考えさせられる深さがある。共同通信社の「悲しみの連鎖」では、被写体の指さす先を想像し、この服装はどの宗派かと思いを巡らせた。山陽新聞社の「島を渡る」の美しい景色からは、地域に根差した「ザ・ライフ」が伝わってきた。NHKの「ヒグマ 異変の海に生きる」を見て、以前知床でヒグマに遭遇した際に聞いた「自然が豊かだから人を襲わない」というガイドの言葉を思い出し、自然の循環が壊れれば人を襲うかもしれないと感じた。
従来の報道写真は現場に居合わせたことに価値があることも多かったが、今は当事者が自らスマホで撮影し「ゼロ次情報」として発信できる。ただ、自分も写真を撮るので分かるが、プロが考えて撮影しキュレーション(整理・構成)したものはクオリティーが全く違う。そこにこだわるのが芸術や文化だ。バズることが目的化し情報がますますファストになる中で、ジャーナリズムの意味は時間をかけて文化を温めていくスローさにこそあるのではないか。
おちあい・よういち 1987年生まれ。東京都出身。筑波大学教授、東京大学准教授。2010年ごろより作家活動を始める。境界領域における物化や変換、質量への憧憬(しょうけい)をモチーフに作品を展開している。25年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサーを務めた。
