高度経済成長下の企業で生きる人間を見つめた「時間」「五月巡歴」などの小説で知られ、「内向の世代」を代表する作家、黒井千次(くろい・せんじ、本名長部舜二郎〈おさべ・しゅんじろう〉)さんが12日に亡くなった。94歳だった。
1932年東京都生まれ。東京大経済学部を卒業後、富士重工業に勤務しながら小説を発表。69年、高度成長期のサラリーマンの生きがいを追求した短編集「時間」を発表、芸術選奨新人賞を受けるなど注目された。70年に退社して創作に専念。組織と個人や労働の意味を問う小説を次々と発表し、私的な感性から時代をつかみ取る「内向の世代」を代表する作家と目された。
77年、皇居前広場でデモ隊と警官隊が衝突した「血のメーデー事件」(52年)に加わった過去を持つ会社員の葛藤(かっとう)を描き出した長編「五月巡歴」が高い評価を受ける。84年、都市郊外に暮らす家族の日常に潜む不安をえぐり出した連作短編集「群棲(ぐんせい)」で谷崎潤一郎賞。女優と劇作家の恋を描いた長編「カーテンコール」(94年)で読売文学賞。老年の視点から政治の季節を問い直す「羽根と翼」(2000年)で毎日芸術賞。老いを意識した男の陰影を映し出す短編集「一日 夢の柵」(06年)で野間文芸賞を受けた。他の小説に「春の道標」「たまらん坂」など。
「家族展覧会」「離れのある家」などの戯曲も手がけた。他にエッセー集「空の地図」、画家の評伝「永遠なる子供 エゴン・シーレ」など。労働とは何かを若者向けに書いたエッセー「働くということ」(82年)はロングセラーに。晩年は老いをめぐる数々のエッセーも親しまれた。
87年から12年まで芥川賞の選考委員を務めた。日本文芸家協会理事長など、長く文壇の要の役を担った。14年から日本芸術院長。同年、文化功労者。
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